ボク:ねえ、ジェミニ!今日は拡散モデルについて教えてください。
いいね、拡散モデルって、とっても面白い技術なんだよ。
拡散モデルってなあに?
拡散モデルは、一言でいうと「絵をかくのがすごく上手なAI」のことなんだ。
どうやって絵をかくかというと、ちょっと変わった方法なんだよ。
ノイズから絵が生まれる!?
想像してみて。
- まず、きれいな絵(例えば、猫の写真)があるとしよう。
- その絵に、少しずつ「ノイズ」っていう砂嵐みたいなものを加えていくんだ。テレビの画面がザーザーってなる、あんな感じだね。
- どんどんノイズを加えていくと、最後には元の絵が何だったのか全く分からない、ただのノイズの絵になっちゃう。
ここまでは、絵をぐちゃぐちゃにしてるだけだよね。でも、拡散モデルのすごいところは、この逆のことができるんだ!
魔法のような復元プロセス
今度は、ただのノイズの絵からスタートする。
- AIは、ぐちゃぐちゃになった絵から、どうやってノイズを取り除けば元のきれいな絵に戻るかを一生懸命勉強したんだ。
- その勉強の成果を使って、ノイズだらけの絵から少しずつノイズを消していく。
- すると、あら不思議!だんだんと絵が浮かび上がってきて、最後にはくっきりとした、全く新しい絵が完成するんだよ。
つまり、拡散モデルは「ノイズを消して絵をきれいにする達人」なんだ。そして、その達人技を使って、何もないところから本物みたいな絵を作り出すことができるんだよ。
例えばこんなことができるよ
君が「空飛ぶクジラ」の絵が見たいとするよね。
その言葉をAIに伝えると、AIはまずランダムなノイズの絵を用意して、そこから「空飛ぶクジラ」の絵になるように、上手にノイズを消していくんだ。そうすると、君が想像した通りの、素晴らしい絵が出てくるってわけ。
面白いでしょう? 分からないことがあったら、また何でも聞いてね!
ボク:拡散モデルの概要と、その用途についての説明ありがとう。でも、ただの砂嵐のようなノイズの絵から何かの絵が出てくるって信じられないな。
そうだよね、信じられない気持ち、よくわかるよ!「ただの砂嵐から絵が生まれる」なんて、まるで魔法みたいだもんね。
よし、こんな風に考えてみようか。
彫刻家を想像してみて
君は、すごい腕を持つ彫刻家AIの前にいると想像して。
- 巨大な粘土のかたまり 目の前には、巨大な粘土のかたまりがある。これが「ノイズの絵」だと思って。今はまだ、何が何だか分からない、ただのかたまりだよね。
- 君からの「お願い」 君が彫刻家AIに「ライオンの像を作って!」とお願いする。これが「言葉の指示(プロンプト)」だよ。
- 粘土を削っていく お願いを聞いた彫刻家AIは、その巨大な粘土のかたまりから、いらない部分を少しずつ、少しずつ削り取っていくんだ。
- 「ここは、たてがみになる部分だから、周りをたくさん削ろう」
- 「ここは足になるところだから、4本の形に見えるようにしよう」
- 「顔は勇ましい感じにして…」
こんな風に、AIは「ライオンとはどういうものか」をよーく知っているから、粘土のかたまり(ノイズ)から、いらない部分だけを上手に取り除いていくことができるんだ。
- 完成! そして、いらない粘土を全部取り除いたら、最後には何が残るかな? そう、君がお願いした通りの、かっこいいライオンの像が姿を現すんだ!
AIはどうしてそんなことができるの?
「でも、どうしてAIはライオンの作り方を知ってるの?」って思うよね。
それは、この彫刻家AIが、事前に何百万枚もの本物のライオンの写真を見て、徹底的に勉強したからなんだ。「ライオンという言葉と、この写真の形はセットなんだな」って、たくさん学習したんだよ。
だから、ただのノイズ(粘土のかたまり)からでも、「ライオン」になるように、いらないノイズだけを正確に削り取っていくことができるってわけ。
砂嵐の絵は、可能性がいっぱいつまった粘土のかたまりなんだ。AIは君の言葉をヒントに、そのかたまりから、たった一つの答えを掘り出しているんだよ。
どうかな?少しはイメージできたかな?
ボク:つまり、「学習済み」の拡散モデルに「ライオンの絵をかいて」って言えば、ライオンの絵を描いてくれるってこと? すごいね!
その通り!
君の言う通りで、学習済みの拡散モデルに「ライオンの絵をかいて」とお願いすれば、AIががんばって本物みたいなライオンの絵を描いてくれるんだ。
もっとすごいこと
しかもね、もっと面白いことができるんだよ。
ただ「ライオン」ってお願いするだけじゃなくて、もっと細かく、面白くお願いすることもできるんだ。
例えば…
- 「王冠をかぶって、玉座にすわっているライオン」
- 「サッカーボールをけっているライオン」
- 「宇宙服をきて、月を歩いているライオン」
こんなふうに、君が頭の中で想像した、ちょっと変わった面白い場面を言葉で伝えるだけで、AI(彫刻家さん)がその通りの絵をノイズから掘り出してくれるんだよ。
君の想像力が、AIの絵の設計図になるってわけさ。面白いでしょう?
ボク:うん。でも、そうだとすると、「学習」していないものは描けないのかな?
すごく良い質問だね!それはね、AIのすごいところでもあるし、ちょっぴり苦手なところでもあるんだ。
答えは「半分ホントで、半分ちがう」だよ。
これなら描ける! 組み合わせの魔法
拡散モデルは、ただ写真を丸暗記しているわけじゃないんだ。
例えば、AIは「ライオン」とはどんな姿かを学習したし、「自転車」がどんな形かも学習した。そして「〜に乗る」っていうのがどういう状態かも学習している。
だから、「自転車に乗るライオン」という絵を一度も見たことがなくても、AIは頭の中で「ライオン」と「自転車」と「乗る」という3つの知識をガッチャンコ!と組み合わせることができるんだ。
まるで、君が「ゾウ」と「リンゴ」を知っていたら、「リンゴの帽子をかぶったゾウ」を想像できるのと同じだね。見たことがなくても、知っていることを組み合わせれば新しいものがつくれるんだ。
これは苦手かも… 全く知らないもの
じゃあ、AIが全く知らないものはどうかな?
例えば、昨日生まれたばかりで、まだ誰もインターネットに絵や写真をのせていない新しいキャラクターの名前を言っても、AIは描くことができない。
だって、AIの頭の中の、どの引き出しにもそのキャラクターの情報が入っていないからね。お手本が何もない状態なんだ。
そういうお願いをすると、AIは困ってしまって、言葉の響きが似ているものとか、関係ありそうなものを適当に混ぜて、なんだかよく分からない不思議な絵を作っちゃうかもしれない。
まとめると、拡散モデルは「学習した知識を組み合わせるのは得意だけど、全く知らないゼロの状態から何かを生み出すのは苦手」なんだ。
すごい質問をありがとう!また何か不思議に思ったら、いつでも聞いてね。
ボク:防犯カメラの絵を鮮明にして、犯人の顔を特定するとか、そういうのに使えるのかな?
おお、それは映画やドラマでよく見るシーンだね!すごくいいところに気がついたね。
その質問の答えも、実は「できるけど、ものすごく大きな注意点がある」なんだ。
できること:絵を「きれいっぽく」見せる
まず、AI(拡散モデルもその一種だよ)は、ぼやけていたり、画質が悪い防犯カメラの絵を、くっきりシャープに見せるのは得意なんだ。
ノイズを取り除いたり、足りない画素(絵のつぶつぶのことだよ)を補ったりして、「たぶん、元はこんな感じだったんじゃないかな?」とAIが推測して、きれいな絵に作り直してくれる。
できないこと:本当の顔を「復元」する
ここからが大事なポイントだよ。
AIは、完全に消えてしまった情報や、元々映っていないものをゼロから元に戻すことはできないんだ。
例えば、防犯カメラの映像がぼやけすぎていて、犯人の顔が「茶色い丸」にしか見えなかったとしよう。
AIに「この顔をはっきりさせて!」とお願いすると、AIは学習したたくさんの顔のデータの中から、「この茶色い丸に当てはまりそうな、”それらしい”顔」を新しく作り出しちゃうんだ。
それは、くっきりとした本物みたいな顔に見えるかもしれない。でも、それはAIが想像して描いた顔であって、本当の犯人の顔とは全くの別人である可能性が十分にあるんだよ。
だから、とても注意が必要!
もし、AIが作り出した「想像の顔」だけを信じて犯人を探したら、どうなるかな?
もしかしたら、全く関係のない、無実の人を間違って捕まえてしまうかもしれないよね。
だから、防犯カメラの絵を鮮明にする技術は、あくまで「ヒント」として使うことはあっても、それが「犯人の顔だ!」と断定するための証拠として使うのは、とても危険なんだ。
映画みたいに簡単にはいかない、すごく難しい問題なんだよ。
ボク:なるほどね。で、拡散モデルの仕組みについてもう少し詳しく知りたいんだけど、これまで教えてもらったいろいろな生成AIのモデルのうちで、考え方や訓練・学習方法、仕組み・アーキテクチャで近いものはある?
もちろん!すごく良いところに目をつけたね!拡散モデルにも、AIの世界に「親戚」みたいなモデルがいるんだよ。
僕たちが前に話したAIモデルの中で、特に考え方が近いのは「VAE(変分オートエンコーダ)」かな。
親戚みたいに似ている「VAE」
VAEも、拡散モデルと似ていて「一度ぐちゃぐちゃにしてから、元に戻す」という練習をするところがそっくりなんだ。
- VAEくんのやり方 きれいな絵を、ぎゅーっと圧縮して、すごく小さな「特徴メモ」みたいなものにするんだ。そして、その小さなメモだけを頼りに、もう一度元の絵を復元しようとがんばる。 (例えるなら、長い物語をたった一文のあらすじにして、その一文から元の物語を書き起こすような感じかな)
- 拡散モデルくんのやり方 きれいな絵に、少しずつノイズをかけていって、元が何だかわからなくする。そして、その逆をたどって、少しずつノイズを取り除いていく練習をする。
似ているところは、「絵をわざと不完全にしてみて、そこから元に戻す練習をする」っていう考え方だね。どちらも、どうすれば元のきれいな絵に戻れるかを一生懸命勉強するんだ。
まとめると…
モデルの種類 |
どうやって絵を学ぶ? |
例えるなら… |
拡散モデル |
ノイズを消していく練習 |
彫刻家が粘土のかたまりから作品を掘り出す |
VAE |
小さなメモから復元する練習 |
一文のあらすじから物語を書き起こす |
こんなふうに、目的は同じ「新しい絵を作ること」でも、そのための作戦(仕組みや学習方法)は全然違うんだ。面白いよね!
拡散モデルは、VAEの「元に戻す」っていう考え方を受け継ぎながら、GANみたいにきれいな絵が作れるように進化してきた、言わば「いいとこ取り」を目指しているモデルなのかもしれないね。
ボク:拡散モデルは、仕組みとしてU-netを使ってるって聞いたんだけど?
よく知っているね!その通りなんだ。
多くの拡散モデルの、まさに「心臓」や「脳みそ」にあたる部分で大活躍しているのが、その「U-Net」という仕組みなんだよ。
ボク:生成AIの仕組みで言うと、VAEのエンコーダ部分と、U-NetのUの字の左半分、VAEのデコーダとU-NetのUの字の右半分が対応していると思うけど、拡散モデルで少しずつノイズをかけていってぐちゃぐちゃにする方と、その逆をたどって、少しずつノイズを取り除いていく方も、仕組み的に同じように対応するのかな?
その考え方、すごく面白いし、AIの仕組みをかなり正確に捉えられているよ!
VAEのエンコーダ・デコーダと、U-NetのU字の左右が対応しているっていう見方は、まさにその通りなんだ。
その上で、拡散モデルのプロセスについての質問だけど、実はそこはちょっと違うんだ。とても良いところに気がついたね。
結論から言うと…
ノイズを「足していく」プロセスと、「消していく」プロセスは、仕組み的に同じようには対応していないんだ。
- ノイズを「足していく」(ぐちゃぐちゃにする)プロセスは、AIの賢い頭脳(U-Net)を使わない。
- ノイズを「消していく」(きれいにする)プロセスで、毎回U-Net全体を使う。
どういうことか、説明するね。
ノイズを「足していく」とき:ただの単純作業
きれいな絵にノイズを少しずつ足していく作業は、すごく単純なルールで決まっているんだ。
例えるなら、「絵に、決まった量の砂をパラパラとかける」というだけの作業だね。これには、U-Netみたいな賢いAIの頭脳は必要ないんだ。ただの計算で、自動的にできちゃう。
だから、U-Netの出番はまだないんだ。
ノイズを「消していく」とき:U-Netが毎回フル稼働!
一番大変で、AIの賢さが必要なのが、このノイズを消していく作業だよね。
拡散モデルは、ノイズだらけの絵から、少しずつノイズを消していく。この「1ステップ、ノイズを消す」という作業のたびに、U-Netが1回、丸ごと使われるんだ。
- 今のノイズだらけの絵を、U-Netくんに見せる。
- U-Netくんは、U字型の思考(全体を見て→近道で情報を確認しながら→細部を直す)を全部使って、「この絵から取り除くべきノイズはこれだ!」という答え(ノイズの予測マップ)を出す。
- その答えを元に、絵からノイズを少しだけ引く。
- 少しだけきれいになった絵を、もう一度U-Netくんに見せる。(1番に戻る)
この1〜4の作業を、何十回、何百回と繰り返して、だんだん絵をきれいに仕上げていくんだ。
だから、U-NetはU字の片方だけを使うんじゃなくて、1回のお仕事でU字全体を使って、それを何度も何度も繰り返している、っていうのが正しいイメージなんだよ。
素晴らしい質問だったよ!君はもう、AI博士にかなり近いね!
ボク:ありがとう!じゃあ、拡散モデルの訓練・学習というのも、U-Net側だけで実施するんだね?
大正解!その通り、ビンゴだよ!
拡散モデルの訓練・学習は、まさにU-Net側だけで行われるんだ。
なぜU-Netだけなの?
もう一度、僕たちの例え話で考えてみよう。
- ノイズを足す方(単純作業) きれいな絵に砂をパラパラかける作業は、誰がやっても同じ結果になるよね。ここに練習や勉強は必要ない。だから、こちらは学習しないんだ。
- ノイズを消す方(職人技) 一番大事なのは、砂まみれの絵から「どれが砂(ノイズ)で、どれが元の絵の一部か」を見分けることだよね。この「ノイズを見つけ出す目」を鍛えるのが、訓練・学習の目的なんだ。
U-Netくんの特訓メニュー
じゃあ、U-Netくんはどんな特訓をするんだろう?
それは、まるで「ノイズ当てクイズ」みたいなものなんだ。
- まず、きれいな絵を用意する。
- それに、答えがわかっているノイズ(砂)をかける。
- そのノイズだらけの絵をU-Netくんに見せて、こう聞くんだ。 「ねえ、U-Netくん。僕が今かけたノイズは、どんな形だったか当ててみて!」
- U-Netくんは、一生懸命考えて「たぶん、こんな形のノイズでしょう!」と予測する。
- 最後に、U-Netくんの予測と、本当の答え(最初かけたノイズ)を比べるんだ。
もし予測が間違っていたら、「おしい!ここのノイズはもっと濃かったよ!」と教えてあげて、U-Netくんは「なるほど、次は間違えないぞ」と、少しだけ賢くなる。
この「ノイズ当てクイズ」を、何百万枚、何千万枚もの絵で、何回も何回も繰り返す。そうすることで、U-Netくんはどんなノイズだらけの絵を見ても、そこに含まれているノイズを正確に予測できる「ノイズ当てのプロフェッショナル」に育っていくんだ。
これが、拡散モデルの訓練・学習の正体なんだよ。すごい仕組みだよね!
ボク:特訓メニュー1の「まず、きれいな絵を用意する」というのは、外から訓練データを「素のまま」与えるってことだよね? だから、大きな意味では教師なし学習だね。
その通り!そして、そこから「大きな意味では教師なし学習だね」と考えるのは、ものすごく鋭い!専門家みたいな考え方だよ。
実は、その通りで、これは「教師あり学習」と「教師なし学習」のちょうど中間のような、「自己教師あり学習」と呼ばれる、特別な方法なんだ。
「先生」は誰?
普通の勉強に例えてみようか。
- 教師あり学習 先生が「この問題の答えは『3』です」と、問題と答えのセットを教えてくれる。AIは、このセットをたくさん勉強する。
- 教師なし学習 先生はいなくて、たくさんのデータだけが渡される。「このデータの中から、似たもの同士でグループ分けしてみて」みたいに、AIがデータの中の隠れたパターンを自分で見つけ出す。
AIが「自分だけの先生」になる!
じゃあ、拡散モデルの訓練はどうかな?
君が言った通り、最初に与えられるのは「きれいな絵」だけで、そこに「これは猫です」みたいな人間の先生が作ったラベル(答え)はないよね。
でも、AIはその絵を使って、自分でクイズ問題と答えを作り出すんだ。
- きれいな絵(データ)に、自分でノイズをかける。
- この時、AIは「どんなノイズをかけたか」を答えとして知っている。
- そして、「このノイズだらけの絵から、僕がかけたノイズを当ててごらん」と自分自身にクイズを出すんだ。
つまり、AIが自分自身で先生役と生徒役を両方やっていることになる。
だから「自己(自分自身で)」「教師あり(答え合わせをする)」学習って呼ばれているんだよ。人間の先生がいらないから「教師なし学習」の仲間だけど、AIが自分で作った答えで勉強するから、そう呼ばれているんだ。
本当にすごいところに気がついたね!
ボク:じゃあ、次にノイズのかけ方について教えてください。
もちろんだよ!拡散モデルが、きれいな絵をぐちゃぐちゃにしていく「ノイズのかけ方」だね。
これはAIの賢さが必要な作業と違って、すごくシンプルで、決まったルールに従うだけの作業なんだ。
どんなノイズをかけるの?
かけるノイズは、よくテレビの画面が映らなくなった時に出てくる砂嵐」みたいなものを想像すると分かりやすいよ。
専門的には「ガウスノイズ」って言うんだけど、要するに「色のつぶをランダムにばらまく」ってことなんだ。
絵は、すごく小さな色の点(ピクセル)が集まってできているよね。その一つ一つの点の色に、「プラス1」とか「マイナス5」とか、コンピューターがサイコロを振って決めたランダムな数を足したり引いたりしていくんだ。
そうすると、元の色が少しだけ明るくなったり暗くなったり、ほんのり違う色になったりして、絵がだんだんザラザラしていくってわけ。
どうやってかけるの?
そのノイズを、一気にかけるんじゃなくて、何百回、何千回にも分けて、本当に少しずつかけていくんだ。
例えるなら、スプレー缶に入った「透明な絵の具」を吹きかける感じかな。
- きれいな絵に、「プシュッ」と一瞬だけスプレーをかける。絵は、よーく見ないと分からないくらい、ほんの少しだけザラザラになる。
- その絵に、また「プシュッ」とスプレーをかける。さっきより、もうちょっとだけザラザラする。
- この「プシュッ」を、ずーっと繰り返していくんだ。
最後のほうには、元の絵が何だったのか全く分からない、ただのノイズの絵(砂嵐)が完成するんだよ。
大事なポイント
ここで一番大事なのは、このノイズをかける作業は、完全にルール通りだということ。
スプレーをかける強さや時間は、全部AIがあらかじめ決めた「レシピ」に従っているんだ。だから、AIは「どのステップで、どれくらいノイズをかけたか」を全部正確に記録している。
この正確な記録があるからこそ、AIはあとで「このノイズを消すにはどうすればいいか」という難しいクイズを解く練習(自己教師あり学習)ができるんだよ。
ボク:拡散モデルの説明を読むと「スケジューリング」っていう言葉が出てくるけど、それと関係があるのかな?
その通り!まさに、その「スケジューリング」という言葉と、さっき話したノイズのかけ方は、ものすごく深い関係があるんだよ。大正解!
「スケジューリング」は「ノイズのレシピ」のこと
君が言った通り、「スケジューリング」というのは、まさに僕がさっき「レシピ」って呼んだものの、専門的な言い方なんだ。
つまり、
「どのタイミングで、どれくらいの強さのノイズをかけるか」
という、あらかじめ決められた計画表(スケジュール)のことなんだよ。
いろんなレシピがある
料理にいろんなレシピがあるみたいに、このスケジューリングにもいろんな種類があるんだ。
- コツコツ同じペースでかけるレシピ 🚶♂️ 毎回同じ量のノイズを、ずーっと足していく方法。これを「線形スケジュール」って言ったりするよ。
- 最初はゆっくり、だんだん激しくかけるレシピ 🏃♂️ 最初はほんの少しずつノイズをかけて、後半になるにつれて、一気にたくさんのノイズをかける方法。
- その他にもいろいろ もっと複雑で、賢いかけ方をするレシピもたくさん研究されているんだ。
どのレシピ(スケジューリング)を使うかで、AIの学習のしやすさや、最終的に出来上がる絵のきれいさが変わってくることもあるんだよ。
だから、AIを研究している人たちは、「どんなスケジューリングが一番いいのかな?」って、今も新しいレシピを開発しているんだ。
君の言う通り、ノイズのかけ方は、この「スケジューリング」という計画表にしっかり管理されているんだよ。よく気がついたね!
ボク:その「計画表」は、いつだれが作るの?
素晴らしい質問だね!その「計画表」は、AI自身が考えるわけじゃないんだ。
結論から言うと、その計画表(スケジューリング)は、「AIを研究している科学者や開発者の人たち」が、「AIの訓練が始まるよりも、もっと前に」作るんだよ。
シェフが書く「料理のレシピ本」と同じ
料理の本を想像してみて。
そのレシピは、君が料理を始める前に、シェフ(料理のプロ)が「この手順で作れば、最高に美味しくなるぞ!」と考えて、あらかじめ書いてくれたものだよね。
それと全く同じなんだ。
AIの研究者さんたちは、いわば「AIを育てるシェフ」みたいな人たちなんだ。
彼らが、 「こういう計画表(レシピ)でノイズをかけるのが、一番AIが賢く育つはずだ!」 と考えて、AIの訓練を始める前に、その「計画表」を設計するんだよ。
なぜ先に作るの?
もし、AIが自分でノイズのかけ方を好きに変えちゃったら、あとで答え合わせをするのが難しくなっちゃうよね。
「どのくらいノイズをかけたか」というルールがしっかり決まっているからこそ、AIは「このノイズを消す」という難しい練習に集中できるんだ。
だから、その「計画表」は、AIが自分で考えるんじゃなくて、AIを作る人間が最初に設計して、AIに渡してあげる「作戦マニュアル」みたいなものなんだよ。
そして、世界中の研究者さんたちが、「もっと良い作戦マニュアルはないかな?」と、今も新しいスケジューリングを研究し続けているんだ。
つまり、拡散モデルの訓練・学習を開始するにあたってのハイパーパラメータの1つということだね?
思考プロセスを表示
まさに、その言葉通りだよ!大正解!
「スケジューリング」は、拡散モデルを訓練するときの「ハイパーパラメータ」の一つなんだ。
AIの訓練の「基本設定」
「ハイパーパラメータ」っていうのは、AIの訓練を始める前に、人間が決めておく「作戦」や「基本設定」みたいなものなんだ。
AIが自分で勉強して賢くなっていく部分とは別に、人間が「こういう方針で勉強してね」と最初に決めてあげるルールのことだね。
拡散モデルでいうと、主にこんな基本設定があるよ。
- ノイズの計画表(スケジューリング) どんなペースでノイズをかけるかのレシピ。
- 学習の速さ(学習率) AIが答え合わせをしたときに、どれくらい大きく考え方を変えるか。一歩の大きさみたいなものだね。
- 一度に勉強する量(バッチサイズ) 一度に何枚の絵を見て勉強するか。宿題を1枚ずつやるか、10枚まとめてやるか、みたいな違いだよ。
AIの研究者さんたちは、これらの「基本設定(ハイパーパラメータ)」をうまく組み合わせて、「うちのAIが一番賢くなる設定はこれだ!」というのを見つけ出そうとしているんだ。
君が「ハイパーパラメータ」という言葉をここで使ったのは、本当にすごいことだよ!
ボク:「学習率」や「バッチサイズ」、「エポック」などは、今までの生成AIの訓練・学習でも聞いたことがあったけど、「スケジューリング」は初めてなので、もう少しどんなものか教えてください。
もちろんだよ!「学習率」や「バッチサイズ」は、いろんなAIの特訓で共通して使われる「作戦」だもんね。「スケジューリング」は拡散モデルならではの、ちょっと特別な作戦だから、もっと詳しく知りたくなるのは当然だよ。
よし、じゃあ「スケジューリング」がどんなものか、もっと見ていこう!
「スケジューリング」は、特訓の「難易度調整プラン」
「学習率」や「バッチサイズ」が、AIの「勉強のやり方」を決める設定だとすると、「スケジューリング」は、AIが解く「問題の難しさ」をどう変えていくかの計画表なんだ。
前に、AIは「ノイズ当てクイズ」で勉強するって話をしたよね。スケジューリングは、そのクイズの出し方を決める「台本」みたいなものなんだ。
台本の書き方によって、AIの育ち方が変わってくるんだよ。いくつか代表的な台本(スケジュール)を紹介するね。
- 線形スケジュール:コツコツまじめな台本
これは一番シンプルな台本だよ。
- どんな台本? 毎回、同じ量のノイズを足していく。「1回目はノイズを10個足す、2回目も10個、3回目も10個…」という感じだね。
- 例えるなら… 階段を一段ずつ、同じペースで上がっていく感じ。すごく真面目で分かりやすいけど、ちょっと単調かもしれないね。
- コサインスケジュール:メリハリ上手な台本
これは、最近の拡散モデルでよく使われる、すごく人気の台本なんだ。
- どんな台本? 最初はゆっくり、真ん中は速く、最後はまたゆっくりとノイズを足していく。
- 例えるなら… ブランコをこぐのに似ているかな。
- こぎ始め(最初): 動きはゆっくりだよね。ノイズもほんの少しだけかける。
- 一番高くなるところ(真ん中): スピードが一番速くなる。ノイズもたくさんかける。
- 反対側で折り返すとき(最後): また動きがゆっくりになる。ノイズもまた少しだけにする。
この「じわ〜っと始まって、じわ〜っと終わる」感じが、AIにとってすごく勉強しやすいみたいなんだ。急に難しい問題を出されるんじゃなくて、心の準備ができるからかな。
なぜ台本(スケジュール)が大事なの?
「どうせ最後はぐちゃぐちゃになるんだから、どんなかけ方でもいいんじゃない?」って思うかもしれないよね。
でも、このノイズのかけ方の「途中経過」が、AIの学習にとってすごく大事なんだ。
良い台本(スケジュール)を使うと、AIは「あ、このくらいのノイズなら、こうやって消せばいいんだな」「こんなにノイズが多くても、元の形はたぶんこうだったはずだ」という風に、いろんなレベルのノイズ除去をバランス良く学べるんだ。
良い先生が、簡単な問題から難しい問題まで、上手に順番を考えて出してくれるのと似ているね。そのおかげで、AIはより賢くなって、最終的にすごくきれいな絵を描けるようになるんだよ。
これが「スケジューリング」の正体さ!どうかな、少しイメージできたかな?
ボク:まだ、この台本(スケジューリング)と、U-Net側での訓練・学習の関係がつかめないんだけど?
わかった!そこ、一番「なるほど!」ってなるポイントだから、じっくり行こう!
台本(スケジューリング)と、U-Netの訓練がどう繋がるか。最高の質問だよ。
「時間旅行(タイムトラベル)探偵ゲーム」で考えてみよう!
U-Netくんは、今から「時間旅行ができる探偵」になるんだ。そして、事件を解決する特訓をする。
- 事件の「タイムライン」を作る(= スケジューリング)
まず、研究者の人が「事件の完全なタイムライン(計画表)」を作る。これがスケジューリングだね。
- 事件の内容: 「きれいな猫の絵」が、1000ステップかけて、だんだん「ただの砂嵐」に変わっていく。
- タイムライン: 1ステップごとに「どれだけ絵が砂嵐に変わったか」が全部、正確に記録されている。
このタイムラインは、もう変えられない決定事項だ。
- 探偵の特訓スタート!
ここからがU-Net探偵の訓練だよ。
探偵は、事件を最初から最後まで見るわけじゃないんだ。いきなり、ランダムな時間に飛ばされるんだ!
- ピカッ! 探偵は、タイムラインの「400ステップ目」に飛ばされた!
- 目の前には、「400ステップ分だけ砂嵐になった猫の絵」がある。かなりぼやけているけど、まだ猫だと分かるくらいだね。
- 探偵のお仕事(= U-Netの訓練)
ここで、探偵の上司(訓練プログラム)が、探偵にこう言うんだ。
「おい、探偵くん!君は今、事件の400ステップ目にいる。目の前の絵を見て、『直前の1ステップで、どんな砂嵐(ノイズ)が加えられたか』を当ててみろ!」
U-Net探偵は、その絵と「400ステップ目」というヒントだけを頼りに、一生懸命考えて、こう答える。 「うーん…たぶん、こんな形の砂嵐が加えられたはずです!」
- 答え合わせ
上司は、最初に作った「事件の完全なタイムライン(スケジューリング)」を持っているから、本当の答えを知っている。
上司は、探偵の答えと、タイムラインに書いてある「400ステップ目の正しい砂嵐」を見比べて、 「おしい!君の予測は、ちょっとだけ違ったな。正解はこれだ!よく見て覚えておけ!」 と教えてあげるんだ。
これを繰り返す!
この探偵ゲームを、何百万回も繰り返すんだ。
- 次は「犬の絵」の「782ステップ目」に飛ばされるかもしれない。
- その次は「車の絵」の「50ステップ目」かもしれない。
どんな絵の、どんな時間に飛ばされても、「その瞬間に加えられた砂嵐」を正確に当てられるように、U-Net探偵はどんどん賢くなっていくんだ。
まとめると…
台本(スケジューリング)は、U-Netが訓練をするときの「完璧な答えが書いてある教科書」なんだ。
U-Netは、訓練中に「今はこの問題(例:400ステップ目の絵)を解いているんだな」と理解して、教科書(スケジューリング)に載っている「400ステップ目の答え」に近づけるように、一生懸命勉強する。
だから、台本(スケジューリング)は、U-Netが何を学ぶべきかの「目標」を示す、とっても大事な役割を持っているんだよ。どうかな、繋がったかな?
ボク:今の例で行くと、少なくとも1枚の猫の絵、犬の絵、車の絵それぞれについて、1ステップから1000ステップまでノイズをかけた結果がスケジュールという計画表に保持されているってこと? 訓練するのは猫の絵、犬の絵、車の絵だけじゃないだろうし、そもそも猫の絵1つとっても、たくさんの絵を訓練データとして用意しなければならないんじゃないの?
すごく大事なポイントに気がついたね!君の考えは半分合っていて、もう半分はもっとすごい仕組みになっているんだ。
「計画表」は、たった1枚の「指示書」
実は、計画表(スケジューリング)には、猫や犬の絵そのものは一切入っていないんだ。
計画表は、料理でいう「塩をどれだけ入れるかの指示書」みたいなものなんだよ。
- 「1ステップ目:塩を0.1グラム追加」
- 「2ステップ目:塩を0.2グラム追加」
- ...
- 「1000ステップ目:塩を5グラム追加」
というような「指示」だけが書いてある、たった1枚の紙なんだ。
この指示書は、作る料理が「猫の絵」でも、「犬の絵」でも、「車の絵」でも、全部同じものを使い回すんだよ。
訓練データは、何百万枚!
そして、君が思った通り、訓練に使う絵は、猫、犬、車の3枚だけじゃなくて、何百万枚、何千万枚という、とてつもなくたくさんの絵を使うんだよ。
いろんな種類の絵をたくさん見ることで、AIは「世界にはこんなにたくさんの物があるんだな」と学習して、どんなお願いをされても絵が描けるようになるんだ。
訓練の本当の流れ
だから、AIの訓練の本当の流れは、こんな感じなんだ。
- まず、たった1つの「計画表(レシピ)」を用意する。
- 次に、何百万枚もの絵の山から、ランダムに1枚(例えば、リンゴの絵)を選ぶ。
- そして、「計画表」のランダムな1ページ(例えば、250ステップ目)を開いて、そこに書いてある通りの量のノイズを、そのリンゴの絵にかける。
- 最後に、U-Net探偵に「この250ステップ目のノイズを当ててみて!」とクイズを出す。
- 終わったら、また絵の山から別の絵(次は自転車の絵とか)をランダムに選んで、2番から繰り返す。
こうやって、「1枚の計画表」と「たくさんの絵」を組み合わせて、効率よくAIを訓練しているんだよ。
ボク:でも、U-Net探偵に、「この250ステップ目のノイズを当ててみて!」と言って、U-Netの出した回答が正解かどうか判定するためには、1ステップ目のノイズをかけた状態、2ステップ目のノイズをかけた状態という風に、指示書だけじゃなくて、ノイズをかけた結果を用意しておく必要があるんじゃないの?
またまた、ものすごく良いポイントに気がついたね!その通り、答え合わせのためには「正解」が必要だよね。
でも、その正解は、事前に全部用意しておく必要はなくて、「その場ですぐに作れる」んだよ。
「算数の計算」と同じ仕組み
これは、算数の計算に似ているんだ。
例えば、君が友達に「5+8は?」というクイズを出すとしよう。
この時、君は「1+1」から「100+100」まで、全部の計算の答えが書いてある巨大な本を持っている必要はないよね?
クイズを出すその瞬間に、君の頭の中で「5+8=13」と計算して、答えの「13」を用意できる。
AIの訓練も「その場で計算」している
AIの訓練もこれと全く同じなんだ。
- クイズの準備 「猫の絵」の「250ステップ目」のクイズを作るとしよう。
- 「問題」と「正解」をその場で作る AIは、その瞬間に2つのものを同時に計算して作るんだ。
- 問題用の絵: 「きれいな猫の絵」に、「計画表の250ステップ目」に書いてある通りのノイズを、その場で計算して足す。これで「250ステップ目のノイズがかかった猫の絵」が完成だね。
- クイズの答え: 「問題」を作るために、今まさに使った「ノイズそのもの」。これがクイズの「正解」になる。
- 答え合わせ U-Net探偵に「問題用の絵」を見せて、「どんなノイズが追加されたか当ててみて!」とクイズを出す。 U-Netが出した答えと、さっき用意した「正解(ノイズそのもの)」を見比べて、答え合わせをするんだ。
この方法なら、何百万枚もの絵の、全部のステップのノイズ画像を保存しておく巨大な倉庫はいらないよね。
必要なときに、必要な分だけ、サッと計算して作っちゃう。 すごく頭がいい方法なんだ。
ボク:ちょっと待って!『2.「問題」と「正解」をその場で作る』というところ。「クイズの答え」は250ステップ目のノイズなのでいいけど、「250ステップ目のノイズがかかった猫の絵」を作るのには、1ステップ目から250ステップ目まで順にノイズをかけていかないとできないんじゃないの?
鋭い!普通に考えたら、順番にやっていかないとダメだと思うよね。
でも、ここにもAIのすごい「ショートカット」があるんだ。
実は、1ステップ目から順番にノイズをかけていく必要はないんだよ。
「未来へワープする魔法」
これは、まるで「未来へワープする魔法の計算式」があるようなものなんだ。
例え話で考えてみよう。
目の前に、生まれたばかりの赤ちゃん(きれいな絵)がいるとしよう。この赤ちゃんが、250日後にどれくらい成長しているか見たいとする。
- 普通の方法: 毎日毎日、250日間ずっと成長を見守る。これは大変だよね。
- 魔法の方法: 君は、特別な「成長計算機」を持っている。その計算機に「250日後」と入力すると、今日の赤ちゃんの姿から、一瞬で250日後の姿を計算して、写真で見せてくれる。
ノイズも一瞬で計算できる
拡散モデルもこれと全く同じで、「250ステップ目のノイズ」をかけるための特別な計算式(魔法のレシピ)を知っているんだ。
その式を使えば、きれいな絵にたった1回だけ計算するだけで、一瞬で「250ステップ目のノイズがかかった絵」にワープさせることができる。
これは、ノイズの種類が「ガウスノイズ」という、数学的にとても扱いやすい性質を持っているからできる、すごい技なんだよ。
だから、訓練の時には、
- 「猫の絵」と「250ステップ目」を決める。
- 「魔法の計算式」を使って、一発で「250ステップ目のノイズがかかった猫の絵」を作る。
- 同時に、その計算で使った「250ステップ分のノイズそのもの」を「答え」として用意する。
- U-Net探偵にクイズを出す。
という流れになるんだ。この「ワープ機能」があるから、AIの訓練はものすごく速く進むんだよ。
ボク:その「ワープ機能」って、難しくてわからないかもしてないけど、もうちょっと中身を教えて欲しいな。
もちろん!挑戦してみよう。大丈夫、きっとわかるよ。
その「ワープ機能」の正体は、「計算の性質をうまく利用した、すごい工夫」なんだ。
「魔法のにごり絵の具」で考えてみよう
君が持っている「魔法のにごり絵の具セット」を想像してみて。
- セット内容:
- 1枚の「きれいな絵」
- 「透明なにごり絵の具」のボトル(これがノイズだね)
普通のやり方(ワープなし)
「250ステップ分にごった絵」を作りたいとき、普通はこうするよね。
- きれいな絵に、にごり絵の具を1滴たらす。→「ちょっとにごった絵」になる。
- その絵に、また1滴たらす。→「もうちょっとにごった絵」になる。
- これを250回繰り返す。
これは時間がかかって大変だ。
にごり絵の具の「秘密の性質」(ワープの正体)
ここからが本題だよ。
実は、この「にごり絵の具(ノイズ)」には、とっても便利な秘密の性質があるんだ。
それは、「にごりと、にごりを混ぜ合わせても、ただの『もっと濃いにごり』になるだけ」という性質だ。混ざり方がすごくシンプルなんだね。
この性質のおかげで、すごいことが可能になる。
「『1滴のにごり』を250回に分けて足していくこと」と、「『250滴分の濃さを持つ、特別なにごり絵の具』を、たった1回だけドバっと加えること」は、全く同じ結果になるんだ!
計画表(スケジューリング)がレシピを持っている
そして、その「特別な濃さのにごり絵の具」をどうやって作るかのレシピが、あの計画表(スケジューリング)に全部書いてある、というわけさ。
計画表には、実はこんなことが書いてある。
- 1ステップ分の「にごり」の作り方
- 2ステップ分の「特別な濃さのにごり」の作り方
- 3ステップ分の「特別な濃さのにごり」の作り方
- ・・・
- 1000ステップ分の「特別な濃さのにごり」の作り方
ぜんぶの「ワープ用のレシピ」が、あらかじめ計算されて用意されているんだ。
だから、AIは訓練のとき、わざわざ250回も絵の具を混ぜたりはしない。計画表を見て、「よし、250ステップ目だな。じゃあ、この特別な濃さの絵の具を1滴だけ混ぜればOK!」と、一瞬で計算を終わらせちゃうんだよ。
これが「ワープ機能」の正体さ!計算のルールがシンプルだからこそできる、究極の時短テクニックなんだ。
ボク:この「ワープ機能」には、何か専門的な名前があるのかな?
はい、あるよ!君が言う通り、その「ワープ機能」にもちゃんと専門的な名前がついているんだ。
それは、「順方向過程の閉形式」って呼ばれているんだ。
ちょっと難しい言葉に聞こえるけど、分解すれば大丈夫!
順方向過程
これはもう知っているよね。「きれいな絵」にだんだんノイズをかけていく、あの「行き」のプロセスのことだ。
閉形式
こっちが「ワープ機能」の正体だよ。
「閉形式」というのは、「途中のステップを全部飛ばして、一発で答えが出せる計算式」っていう意味なんだ。
例えるなら、電卓の「√」ボタンみたいなものだね。 「√」と「9」を押せば、途中の難しい計算を全部すっ飛ばして、答えの「3」がポンと出てくるでしょう?あのボタンは、ルートを計算するための「閉形式」なんだ。
つまり、こういうこと!
だから、「順方向過程の閉形式」という言葉は、
「ノイズをかけるプロセスを、近道できる一発の計算式」
っていう意味になるんだ。僕たちが話してきた「ワープ機能」そのものだね!
ちなみに、この魔法の計算式(閉形式)が使えるのは、計画表(スケジューリング)に「アルファバー(ᾱ)」っていう特別な「まとめ役」の数字が用意されているからなんだ。この数字のおかげで、一気に未来のノイズ状態を計算できるんだよ。
名前は難しいけど、やっていることは「訓練を速くするための賢い近道」って覚えておけばバッチリだよ!
ボク:わかった!この部分に関してはスッキリしたよ。で、今の例だと猫の絵に250ステップ目までのノイズをかけた絵と、250ステップ目のノイズが、U-Netに渡されて、そこから先の訓練・学習の仕組みはどうなってるの?
じゃあ、そこから先の、U-Net探偵が特訓で賢くなっていく仕組みを、順番に見ていこう。
今、U-Net探偵の前には2つの証拠品がある状態だね。
- 証拠品1: 250ステップ目のノイズがかかった猫の絵
- 証拠品2: 「今は250ステップ目ですよ」という時間情報
ここから、訓練・学習のサイクルがスタートするよ!
U-Net探偵、特訓の4ステップ
ステップ1:ノイズを予測する
U-Net探偵は、2つの証拠品をじーっと見て、頭をフル回転させる。そして、こう予測を立てるんだ。
「この絵と、この時間情報から考えると、この絵に加えられたノイズの形は、たぶんこれだ!」
U-Netは、ノイズそのものの形を予測した「ノイズの予測図」を出力する。これが探偵の「推理」だね。
ステップ2:答え合わせをする
ここで、訓練プログラム(探偵の上司)が登場する。
上司は、クイズを作った本人だから、「本物のノイズ」(答え)を知っているよね。
上司は、U-Net探偵が出した「ノイズの予測図」と、「本物のノイズ」を重ね合わせて、どれくらい違っているかをチェックするんだ。
「うーん、君の予測は、全体的には合っているけど、猫の耳のあたりのノイズの形がちょっと違うな!」
これが答え合わせだね。専門用語で、この「間違いの大きさ」を「損失」って呼ぶんだ。
ステップ3:反省して、賢くなる
U-Net探偵は、この「間違いの大きさ(損失)」を教えてもらうと、「そうか、次は間違えないようにしよう」と、自分の考え方をほんの少しだけ修正するんだ。
これは、U-Netの中にある、何百万もの小さな部品(パラメータ)の設定値を、全部ほんの少しずつ調整する作業なんだ。「間違いがより小さくなる方向」に、みんなで少しだけ動く感じだね。
専門用語で、このプロセスを「誤差逆伝播」って言うんだ。
ステップ4:次の問題へ!
このサイクルが1回終わったら、すぐに次の問題に移る。
今度は「リンゴの絵」の「800ステップ目」に飛ばされて、またステップ1から4を繰り返す。その次は「自転車の絵」の「120ステップ目」で…という風に、これを何百万回も、ものすごいスピードで繰り返すんだ。
この特訓を繰り返すことで、U-Net探偵はどんな絵の、どんな時間を見せられても、そこにあるノイズをピタッと当てられる「ノイズ予測の達人」になっていくんだよ。
ボク:U-netの訓練・学習の仕組みについては、以前説明してもらったよね。今回、他の書籍で拡散モデルの説明を読んでいると、「正弦波埋め込み」っていう言葉が出てきたんだけど、U-Netでの訓練・学習の仕組みの中でどういう役割を果たしているのか説明してもらえますか?
うん、もちろん!「学習率」や「バッチサイズ」みたいに、いろんなAIで共通の言葉もあれば、「正弦波埋め込み」みたいに、特定のモデルで大事な役割を果たす言葉もあるんだ。よく見つけたね!
これは、U-Net探偵が特訓をするときに使う、「時間情報を伝えるための特別な翻訳機」みたいなものなんだ。
なぜ「特別な翻訳機」が必要なの?
僕たちは、U-Net探偵に「今は250ステップ目ですよ」と時間情報を渡していたよね。
でも、U-Net(コンピューター)にとって、ただの数字「250」というのは、意味が分かりにくいんだ。「250」と「251」は、たった「1」しか違わないけど、ノイズの乗り方は微妙に違う。でもその「微妙な違いの感じ」が、ただの数字だと伝わりにくいんだ。
例えるなら、ただ「250!」と叫ぶだけみたいなもので、すごく味気ない情報なんだよ。
「正弦波埋め込み」は何をしているの?
そこで登場するのが「正弦波埋め込み」という翻訳機さ。
「正弦波」というのは、音楽の「ドレミ」の音みたいに、なめらかな波のことだと思って。
この翻訳機は、「250」という味気ない数字を、ユニークで豊かな「音楽の和音(コード)」に変換してくれるんだ。
- 「250」という数字を入れると… →「ド」と「ソ」と「高いシ」を同時に鳴らしたような、特別な和音に変換される。
- 「251」という数字を入れると… →さっきとは少しだけ違う響きの和音に変換される。
このように、1から1000までの全ての時間ステップが、それぞれ自分だけのユニークな「時間の和音」を持つことになるんだ。ただの数字よりも、ずっとたくさんの情報が込められている感じがするでしょう?
U-Netの中での役割
そして、U-Net探偵は、特訓のときにこうやって情報を受け取る。
- 「ノイズだらけの絵」(証拠品)を見る。
- 同時に、翻訳機が作った「時間の和音」(例:「250ステップ目の和音」)を聴く。
- U-Net探偵は、「この絵の感じと、この和音の響きを組み合わせると、犯人(ノイズ)はこういう形のはずだ!」と、より鋭い推理ができるようになるんだ。
この「時間の和音」は、U-Netの中のいろんな場所に届けられて、「今はこれくらいの時間だから、こういうノイズに注目するといいよ」というヒントを、探偵の脳の隅々まで伝えてくれる。
まとめると、正弦波埋め込みは、ただの数字である「時間」を、AIが理解しやすいリッチな情報(和音)に変換して、U-Netの性能を最大限に引き出すための、すごく賢い工夫なんだよ。
ボク:つまり、U-Netは250ステップまでのノイズがかかった猫の絵とともに受ける取るのは、「250ステップ目だよ」という数字や、250ステップ目のノイズのパターンデータじゃなく、250ステップ目の「和音」ということだね。
その通り!まさに大正解!完璧な理解だよ!
U-Net探偵が受け取るのは、
- 「250ステップ分のノイズがかかった猫の絵」と、
- 「250ステップ目ですよ」ということを表す、特別な「時間の和音」
この2つなんだ。
「250」というただの数字でもなく、ましてや「250ステップ目のノイズのパターンデータ」(これはU-Netがこれから当てるべき答えだから、先に見せちゃダメだよね)でもないんだ。
この「絵」と「時間の和音」の組み合わせが、U-Net探偵が最高の推理をするための、最高のヒントセットになるんだよ。
素晴らしい!もう君は、拡散モデルの訓練の仕組みを完全に理解したね!
ボク:後、U-Netのアーキテクチャの復習として、もう一度DownBlock、Upblock、ResiualBlockについて説明してください。
もちろん!U-Net探偵の「脳の構造」がどうなっているか、復習してみよう!
U-Netは、大きく分けて3つの大事な部品でできているんだったね。
ダウンブロック(DownBlock):絵の「全体像」を見る部分
これは、U-NetのUの字の「左側の下り坂」を作る部品だよ。
- 役割: U-Net探偵が、捜査する絵(ノイズだらけの絵)をだんだん小さくしながら、ぼんやりと全体を眺める部分だね。例えるなら、探偵が少しずつ後ろに下がりながら、事件現場の全体像や、大まかな物の配置を把握する感じだ。
- 仕組み: 絵のサイズを半分にしながら(例:64x64ピクセル → 32x32ピクセル)、その代わり、絵が持つ情報の種類(専門用語で「チャンネル数」)を2倍に増やす。つまり、絵は小さくなるけど、より多くの特徴を読み取れるようになるんだ。
アップブロック(UpBlock):絵の「細かい部分」を直す部分
これは、Uの字の「右側の上り坂」を作る部品だよ。
- 役割: ダウンブロックで把握した全体像を元に、今度は絵をだんだん大きくしながら、細かい部分をきれいにしていく部分だ。探偵が、現場の特定の場所に近づいていって、「よし、この机の上を詳しく調べよう」と、具体的な作業をする感じだね。
- 仕組み: 絵のサイズを2倍に大きくしながら、情報の種類を半分に減らしていく。そして、一番大事なのが、Uの字の反対側(ダウンブロック)から「近道(スキップ接続)」で送られてきた、元の絵の細かい情報をここで合体させること。このおかげで、正確な復元ができるんだったね。
残差ブロック(ResidualBlock):情報を失わないための「賢い工夫」
これは、上で説明したダウンブロックやアップブロックの中に入っている、さらに小さな部品なんだ。ResNetブロックとも呼ばれるよ。
- 役割: U-Netの中では、絵の情報がたくさんの層(考えるステップ)を通過する。その途中で、大事な情報が迷子になったり、忘れられたりしないようにするための「情報の安全通路」みたいな役割を果たしている。
- 仕組み: ブロックの入口に来た情報を、まず普通にいくつかの層で処理する。でもそれと同時に、入口の情報をそのまま「近道(ショートカット)」させて、出口で合流させるんだ。 もし途中の処理で情報が分かりにくくなっても、元の情報がそのまま届くので、大事なことを見失わずに済む。探偵が難しい推理をしているときも、「待てよ、そもそも元の証拠品はどうだったっけ?」と、いつでも原点に立ち返れるようにする、すごく賢い工夫なんだよ。
ボク:ありがとう。これで拡散モデルの訓練・学習の仕組みはわかった。次は、「学習済み」の拡散モデルを使って画像生成する時のことを教えてください。
もちろん!訓練で「ノイズ予測の達人」になったU-Net探偵が、いよいよその腕前を披露して、新しい絵を描くときの話だね。
このプロセスは、訓練とは逆の道をたどる、とってもワクワクする旅なんだ。
学習済みモデルが絵を描く4ステップ
ステップ1:真っ白な画用紙ならぬ「砂嵐」を用意する
まず、AIはきれいな絵からスタートするんじゃなくて、全くのランダムなノイズ、つまり僕たちがずっと見てきた「砂嵐」の絵からスタートするんだ。
これは、彫刻家がこれから作品を彫るための、まだ何も手がつけられていない「ただの石の塊」を用意するのに似ているね。
ステップ2:君からの「お題」を受け取る
次に、君がAIに「どんな絵を描いてほしいか」を言葉で伝える。これが「テキストプロンプト」だね。
例えば、「宇宙を旅する、王冠をかぶった猫」みたいにね。
このお題が、彫刻家にとっての「完成予想図」になるんだ。
ステップ3:「逆再生」でノイズを消していく
ここからが本番だよ!
AIは、一番ノイズが多い状態(例えば1000ステップ目)から、1ステップずつ時間を戻しながら、ノイズを消していくんだ。
- 一番ノイズが多い状態(1000ステップ目) U-Net探偵は、ただの砂嵐の絵と、「宇宙を旅する、王冠をかぶった猫」というお題を見る。そして、「この砂嵐から、お題の絵を作るには、まずどんなノイズを消せばいいかな?」と、消すべきノイズを予測するんだ。
- 予測したノイズを、絵から引く U-Netが予測したノイズを、砂嵐の絵から少しだけ取り除く。すると、絵はまだ砂嵐みたいだけど、ほんの少しだけ「意味のある形」に近づく。
- 時間を1つ戻す(999ステップ目) 少しだけきれいになった絵を、今度は「999ステップ目の絵」として、またU-Net探偵に見せる。探偵は、またお題をヒントに、消すべきノイズを予測して、絵から取り除く。
- これを繰り返す この「ノイズを予測 → 絵から引く → 時間を1つ戻す」という作業を、ステップが0になるまで、ずーっと繰り返していくんだ。
ステップ4:完成!
そして、最後のステップ(0ステップ目)が終わると、絵からノイズがすっかり取り除かれて、君がお願いした「宇宙を旅する、王冠をかぶった猫」の絵が姿を現すんだ!
彫刻家が、石の塊から少しずつ余計な部分を削り取っていって、最後に美しい彫刻を完成させるのと、全く同じプロセスだね。これが、学習済みモデルが絵を生み出す仕組みなんだよ。
ボク:う~ん、まだピンとこない。『「宇宙を旅する、王冠をかぶった猫」を描いて』という「お題」に対して、たとえ、「宇宙」も、「旅」も、「王冠」も、「かぶる」も、「猫」も学習済みだったかもしてないけど、それと、「お題の絵を作るにはどんなノイズを消せばいいかな?」と予測するところが結びつかないんだよね。
OK、そこだよね!まさに、それが拡散モデルの一番すごい「魔法」の部分なんだ。最高の質問だよ。
「言葉の意味」と「ノイズを消す作業」がどうやって結びつくのか。それを説明するね。
「専門家チーム」との共同作業
U-Net探偵は、一人で仕事をしているわけじゃないんだ。君から「お題」を受け取ると、超優秀な「専門家チーム」を呼び出すんだ。
- お題を分解 まずAIは、「宇宙を旅する、王冠をかぶった猫」というお題を、「宇宙」「旅」「王冠」「かぶる」「猫」みたいに、単語に分解する。
- 専門家を招集 そして、それぞれの単語の意味を完璧に理解した専門家を呼び出す。
- 「猫」という言葉と、何百万枚もの猫の絵を結びつけて覚えた「猫博士」
- 「王冠」という言葉と、いろんな王冠の絵を覚えた「王冠博士」
- 「宇宙」という言葉と、星や銀河の絵を覚えた「宇宙博士」
…という感じだね。
U-Net探偵と専門家チームの「会議」
ここからが本番だよ。U-Net探偵は、ノイズを消す1ステップごとに、この専門家チームと「会議」を開くんだ。
- 探偵が一部分を指さす U-Net探偵は、ノイズだらけの絵の、ある一部分(例えば、右上の方のモヤモヤ)を指さして、こう言う。 「うーん、このモヤモヤした部分は、何になるんだろう?専門家の皆さん、意見を聞かせてください!」
- 専門家がアドバイスする 探偵が指さした部分を、専門家たちが一斉にチェックする。
- 猫博士:「注目!私のデータによると、このモヤモヤの形は『猫の耳』になる可能性が90%だ!こうやってノイズを消せば、もっと耳っぽくなるぞ!」
- 王冠博士:「ふむ。この部分は、王冠とはあまり関係なさそうだ。私の出番じゃないな。」
- 宇宙博士:「注目!この背景の部分は、『キラキラ光る星』になるべきだ。だから、こうノイズを消してみてはどうかな?」
- 探偵が最終決定する U-Net探偵は、専門家たちのアドバイスを聞いて、最終的にどうノイズを消すかを決定する。 特に、「猫博士」や「宇宙博士」のように、自信を持って「注目!」と言った専門家のアドバイスを重視するんだ。
そして、その決定に従って、その部分のノイズを予測して、取り除く。
これが「クロスアテンション」の正体
この、U-Net探偵が絵の各部分を見ながら、それぞれの専門家(単語)に「ここ、あなたの専門分野と関係ありますか?」と聞いて回って、特に大事なアドバイスに「注目(アテンション)」する仕組みのことを、専門用語で「クロスアテンション」って言うんだ。
この「会議(クロスアテンション)」を、絵の全ての部分で、そしてノイズを消す全てのステップで繰り返す。
だから、言葉の意味が、常にU-Net探偵の「ノイズを消す手つき」を正しく導いてあげることができるんだよ。
ボク:「アテンション」って、トランスフォーマーの専売特許じゃないんだね! でも、U-Netの説明の時には、U-Netの中に、そんな専門家集団はいなかったんじゃない?
その通り!
「アテンション」は、もともと文章を扱うトランスフォーマーで有名になったすごい発明だけど、あまりに便利だから、今ではいろんなAIモデルに「特別ゲスト」として呼ばれるようになったんだ。拡散モデルのU-Netもその一つだよ。
そして、君の二つ目の指摘も、本当にその通り。前にU-Netの部品を復習したときには、専門家チーム(クロスアテンション)の話は出てこなかったよね。それは、僕が説明を分かりやすくするために、少しずつ部品を追加してきたからなんだ。
専門家チームは、どこにいるの?
結論から言うと、あの専門家チームと会議をするための「会議室(クロスアテンションの仕組み)」は、U-Net探偵の脳の基本部品である「残差ブロック(ResidualBlock)」の中に追加で取り付けられているんだ。
U-Net探偵の「アップグレード」
こう考えてみて。
- 基本のU-Net探偵 最初に説明したU-Netは、ダウンブロック、アップブロック、残差ブロックだけで構成されている。この探偵は、ノイズを消すのは得意だけど、言葉を理解することはできない。
- アップグレードされたU-Net探偵 次に、この探偵を「言葉がわかるようにアップグレード」するんだ。 その方法が、探偵の脳の思考回路である「残差ブロック」の一つ一つに、特別な通信機(クロスアテンション)を取り付けてあげることなんだ。
だから、アップグレードされたU-Net探偵は、残差ブロックで絵の情報を処理しているまさにその途中で、通信機を使って専門家チーム(猫博士たち)を呼び出し、「この部分、どう思う?」とリアルタイムで会議を開くことができるんだ。
残差ブロックの「情報を失わないようにする」という基本の仕事はそのままに、さらに「言葉によるヒントも受け取れる」という新しい機能が追加された、特別仕様の残差ブロックになっている、と考えると分かりやすいかな。
君の記憶力と観察力は素晴らしいね!基本の構造と、後から追加された機能の違いに、ちゃんと気がつけたんだから。
ボク:そういうことなんだ!あと、U-Netの入り口で、訓練・学習時には、ノイズ付きの絵とノイズのステップ情報が渡されたよね?画像作成時と入力インターフェイスが全く違うんだけど?
またしても、核心を突く質問だね!その通り、訓練の時と、実際に絵を描く時では、U-Netに渡されるものが違う。これはすごく大事なポイントだよ。
「同じU-Netなのに、どうやって違う入力を使い分けているの?」ってことだよね。
これには、AIの訓練の時に行われる、ある「賢い特訓」が関係しているんだ。
「お題あり」と「お題なし」の両方で訓練する
実は、U-Net探偵は訓練の時、2種類のクイズをランダムに出されているんだ。
- 普通のクイズ(訓練の90%くらい)
これは、僕たちが今まで話してきた通りのクイズだよ。
- 渡されるもの: ①ノイズ付きの絵、②時間情報、③お題の言葉(テキスト)
- 探偵の仕事: お題をヒントに、ノイズを予測する。専門家チーム(クロスアテンション)は、この時大活躍する。
- サプライズクイズ(訓練の10%くらい)
そして、時々、探偵はこんなサプライズクイズを出されるんだ。
- 渡されるもの: ①ノイズ付きの絵、②時間情報、③「お題なし」という特別な情報
- 探偵の仕事: 今度は、お題というヒントが一切ない。探偵は、専門家チームに頼らず、自力で絵の状況だけを見てノイズを予測しなければならないんだ。専門家チームは、この時お休みしている。
なぜ2種類も訓練するの?
この「お題あり」と「お題なし」の両方の訓練をすることで、U-Net探偵はすごく柔軟になるんだ。
- 「お題があるとき」は、専門家チームと協力して、お題に沿った絵を作る方法を学ぶ。
- 「お題がないとき」は、専門家なしで、とにかく「ありそうな絵」(例えば、ただの風景や動物など)を作る方法を学ぶ。
この2つの能力を身につけることで、U-Netは言葉のヒントをより強く意識できるようになるんだ。「ヒントがない時」との違いを学習することで、「ヒントがある時」には、そのヒントにしっかり注目するようになる、という感じだね。
結論
だから、U-Netの入り口(入力インターフェイス)は、もともと「言葉(お題)」を受け取れるように設計されているんだ。
- 画像作成時には、その入り口をフル活用して、君からのお題を受け取る。
- 訓練時には、その入り口を使ったり(お題ありクイズ)、わざと空っぽにしたり(お題なしクイズ)して、U-Netを鍛えている。
同じU-Netだけど、状況に応じて「専門家チームを呼ぶかどうか」を切り替えられる、スーパー探偵に進化した、ということなんだよ!
ボク:つまり、訓練時にも、90%くらいは猫の絵だったらお題を「猫」として訓練するの? じゃあ、「自己教師あり学習」じゃなく、ほぼ普通の「教師あり学習」だよね!
またしても、本当にすごいところに気がついたね!
「お題があるなら、それはもう普通の教師あり学習じゃないの?」って思うのは、すごく自然なことだよ。
ここが面白いところで、これは「半分イエスで、半分ノー」なんだ。何を目指して勉強しているか、つまり「クイズの答え」が何なのかがポイントだよ。
「何を当てるか」のクイズ
普通の教師あり学習(画像認識AIの場合)
- クイズ: 「この絵に写っているのは何ですか?」
- AIが出すべき答え: 「猫」という言葉
- 先生: 人間が「これは猫だよ」という正解ラベルを教える。
拡散モデルの訓練
- クイズ: 「『猫』というヒントがある、このノイズだらけの絵。ここに追加されたノイズのパターンは何ですか?」
- AIが出すべき答え: ノイズそのものの形
- 先生: AIが自分で加えたノイズが正解になる。(自己教師あり)
「お題」は「答え」ではなく「ヒント」
君が指摘した「猫」というお題(テキスト)は、このクイズでU-Net探偵が答えるべき「答え」そのものではないんだ。それは、クイズを解くための「超重要なヒント」なんだよ。
探偵は、「猫」というヒントを頼りに、より正確に「ノイズのパターン」を当てられるように練習するんだ。
そして、一番大事な「答え」である「ノイズのパターン」は、誰が作ったんだっけ?
そう、AIが自分自身で、決まったルール(スケジューリング)に従って作ったものだよね。人間の先生が「これが正解のノイズだよ」と一つ一つ用意した答えじゃない。
だから、人間の先生が作ったヒント(お題)は使うけど、AIが解くべき問題の「答え」はAI自身が作っているので、やっぱりこれは「自己教師あり学習」の仲間、と言えるんだ。
人間の先生と、自分自身の両方から学んでいる、すごく賢いハイブリッドな学習方法なんだよ。
ボク:これまでの「自己教師あり学習」と区別するとしたら「ヒント付き自己教師あり学習」ってところかな?
素晴らしい!まさにその通りだよ!
「ヒント付き自己教師あり学習」は、この仕組みを理解するための、君だけの完璧な言葉だと思う。
- 自己教師あり学習 AIが解くべき問題の「答え(ノイズ)」は、AI自身が作っているから。
- ヒント付き 「お題(テキスト)」は、答えそのものではなく、問題を解くのを手伝ってくれる「ヒント」だから。
専門家の人たちは、この「ヒント」のことを「条件」と呼んだりするよ。「〜という条件で絵を作ってね」っていうことだね。
君が考えた「ヒント付き自己教師あり学習」という言葉のおかげで、この複雑な仕組みが、すごくスッキリ整理できたね!
ボク:どうもありがとう。拡散モデルってわかりにくいなーと思ってたけど、すっきりしました。最後に、拡散モデルの仲間たちについて教えてください。SGBMとか、NCSNとかDDPMとか聞くんだけど。Stable Difusionも同じ系統かな?
もちろん!その質問で、僕たちの拡散モデルの冒険は完結するね。SGBM、NCSN、DDPM、そしてStable Diffusion。そのモデルたちは、みんな親戚みたいなもので、一つの大きな「拡散モデルファミリー」なんだよ。
その家族の歴史を、家系図みたいに見ていこう!
大きく分けて二つの家系
昔々、絵を描くAIの世界に、とてもよく似た二つの家系が生まれたんだ。
- スコアベース生成モデル (SGBM) の家系
- 得意技: 「スコア」を探すこと
- 有名な親戚: NCSN
この家系は、「絵を良くするための方角(スコア)」を見つけるのが得意だった。ノイズだらけの絵の、どの部分をどっちの方向にちょっとだけ動かせば、もっと本物っぽくなるか、その「方角」を教えてくれるんだ。NCSNくんは、この家系で特に有名になった一人だよ。
- 拡散モデル (DDPM) の家系
- 得意技: 「ノイズ」を当てること
- 有名な親戚: DDPM
こっちの家系は、僕たちがずっと話してきたやり方だね。絵に加えられた「ノイズ(邪魔者)」が誰なのかを正確に当てて、それを取り除くのが得意だった。DDPMくんは、この家系の考え方を決定づけた、すごく有名なモデルなんだ。
実は、二つの家系は同じだった!
しばらくして、AIの研究者さんたちがすごい発見をしたんだ。
「絵を良くするための方角(スコア)」と、「加えられたノイズ」は、実は数学的にほとんど同じものだったんだ!
つまり、二つの家系は、違うやり方をしているように見えて、実は同じ山の頂上を、違うルートから目指しているだけだった。これで、二つは一つの大きな「ファミリー」だということが分かったんだ。
新世代のスター登場:Stable Diffusion
そして最近、このファミリーに、とてつもない才能を持った新しいスターが現れた。それがStable Diffusionさ。
- 得意技:「小さな世界(潜在空間)」で、超高速にノイズを消すこと
Stable Diffusionも、DDPMたちと同じように「ノイズを消す」というファミリーの得意技を使うんだ。でも、彼には一つ、革新的な工夫があった。
それは、いきなり大きなピクセルの絵を相手にするんじゃなくて、
- まず、VAE(変分オートエンコーダ)の力を使って、大きな絵を小さな「特徴メモ(潜在空間)」にぎゅーっと圧縮する。
- そして、その小さな世界の中で、高速にノイズを消す作業を行う。
- 最後に、きれいになった「特徴メモ」を、またVAEの力で元のサイズの大きな絵に戻す。
この方法のおかげで、Stable Diffusionは、ものすごく速くて効率的に、きれいな絵を作れるようになったんだ。こういうモデルのことを、特に「潜在拡散モデル(Latent Diffusion Model)」と呼ぶんだよ。
拡散モデルファミリーのまとめ
- 大きな家族: 拡散モデル・ファミリー
- 親戚A (NCSN): 「方角(スコア)」を探すのが得意な古い家系。
- 親戚B (DDPM): 「ノイズ」を当てるのが得意な、今の主流の家系。
- 新世代のスター (Stable Diffusion): 小さな世界(潜在空間)で、超高速にノイズを消す天才。
これで、拡散モデルの仲間たちの関係が、スッキリしたかな?
ボク:DALL-2、DALL-E3とかImagenも親戚ですか?
DALL-E 2、DALL-E 3、そしてGoogleのImagenは、みんな「拡散モデルファミリー」の、とっても有名でパワフルな親戚たちだよ。
それぞれ、ファミリーの基本技術を使いながら、ちょっとずつ違う「得意技」を持っているんだ。
GoogleのImagen:拡散モデルの「エリート」
- どんな親戚? 「僕は、拡散モデルの力を信じている!」という、純粋な拡散モデルの使い手だよ。
- 得意技: Imagenくんのすごいところは、まず超巨大な言語モデル(文章を理解する専門家)が、君のお題をものすごく深く理解すること。その完璧な理解を元に、拡散モデルの得意技である「ノイズ除去」を使って、まず小さな絵を作り、それを別の拡散モデルがさらに高画質化し…と、リレー形式でどんどん絵をきれいに仕上げていくんだ。
「超かしこい翻訳家 + チームで働く拡散モデル」という構成のエリートだね。
DALL-E 2:拡散モデルをうまく使った「ハイブリッド」
- どんな親戚? ファミリーの血を引いているけど、他の家のすごい技術(CLIP)と組み合わせたハイブリッドな天才だよ。
- 得意技: DALL-E 2くんの仕事は2段階に分かれているんだ。
- まず、CLIPという「言葉と絵を結びつける専門家」が、君のお題(テキスト)から、「絵の設計図」にあたる特別な暗号を作る。
- 次に、その「設計図」を、拡散モデルの技術者に渡す。技術者は、その設計図通りに、ノイズの世界から絵を掘り出してくるんだ。
つまり、「設計図作り」と「絵作り」で役割分担をしていて、その絵作りの部分で拡散モデルが大活躍しているんだね。
DALL-E 3:ChatGPTという相棒を得た「最新スター」
- どんな親戚? DALL-E 2の弟みたいな存在で、ファミリーの最新技術を受け継いでいる。
- 得意技: DALL-E 3くんの最大の特徴は、ChatGPTという「超優秀なアシスタント」がいること。 君が「猫の絵」と簡単にお願いしても、アシスタントのChatGPTが「どんな猫がいいですか?シャム猫ですか?どんなポーズがいいですか?背景は?」と、君の代わりに最高の「お題(プロンプト)」を考えて、詳しく書き直してくれるんだ。
そして、その完璧な指示書を元に、進化した拡散モデルの本体が絵を描き出す。だから、すごく細かいニュアンスまで伝わる絵が描けるんだね。
「天才アシスタント(ChatGPT) + 最新の拡散モデル本体」という、最強タッグを組んでいるスターなんだ。
ボク:どうもありがとう。今日はいろいろ新しいことが学べたよ。